夜の二宮伝説

帰り道、電車に乗っていた。座って寝ていたのだが、隣に立っているカップルの男の発言に、うっすらと意識が戻る。
男「ねえ、嵐って全員言える?」
彼女の方は、たどたどしく4人目までの名前を言った。そこで止まっちゃうんだ、本当に? 本当はヲタで隠してるだけなんじゃないの? と、自分がそうだからって勝手に重ねて、成り行きを見守っていた。
男「え、ねえ、もう一回言ってよ」
なぜだ。
女「えー、だからー、櫻井でしょ」
男「あのバランスいい感じの人ね」
女「松潤でしょ」
男「うんうんマツジュンね」
女「あと、大野とー」
男「ちょっと不思議な奴だよね、やるときはやる系の」
女「うーんとー、あとー、二宮」
男「きれいな顔してる奴ね」
もう私の目はばっちり開いていた。彼女は本当に苦戦しているようで、かつ呆れている雰囲気もあるので、多分ヲタじゃない。むしろ男の方が妙に詳しい。
男「あとさ、たまにすごいミラクルなギャグをかます奴いない? 誰だっけ?」
お前、明らかに誘導してるだろ。
男は決して諦めない。もう嵐の話はいいよと言いたげな彼女の様子にも気がつかない。それどころか、独自の嵐論を語り始めた。
「櫻井ってさ、ニンキキッズにいても浮かない感じの雰囲気じゃない? 顔もきれいだし」
「あの2人の中に櫻井が入っても、すぐに3人で雰囲気作れると思うな」
「でさ、1人すっごいとびきりのギャグ言う奴いるよね。誰だったっけな」
突っ込みたい気持ちを抑えながら見ていると、男はこう続けた。
「あ、二宮だ、それ。二宮」
彼女はもはや無言である。
「二宮ってきれいな顔してるよなー」
男の渾身の捨てぜりふを残し、2人は降りていった。
車内に漂う微妙な空気。2回も言うんだ、それ……。
あの男は、自分のヲタ心を大事にするあまり、彼女の様子をうかがう心を失ってしまったのかもしれない。本当は相葉を思い出してほしかったはずが、二宮の話がしたくてしょうがなくて、途中で路線を変更してしまったのかもしれない。
そして私は、とてもいい友達を作る機会を失ったのかもしれない。