パレット考:サクラップの逆襲

「パレット」
3枚目のアルバム「How's it going?」に収録されたこの曲は、遠く離れてしまう恋人たちの別れの瞬間を描いた切ない一曲である。彼女が彼を忘れないために似顔絵を描いてくれとせがみ、パレットを開いたものの、泣いてしまってとても描けない。パレットには閉じ込めきれない二人の思い出。「仕舞いきれない想いの残骸」。しかし「君のためにどこにでも行くよ、なんでもするよ」「まるで二度と会えない別れみたいに」と歌っていることから、恋が終わるわけではないらしい。「これから遠距離になって、一応未来はあるのかな」と思える程度に、おぼろげな希望が残されている。そこがほのかに温かい。二人の未来はわからない、しかしこの瞬間だけは「いつまでも好きだよ」「きっと色褪せずに」と信じているのだ……

ところが、4枚目のアルバム「いざッ、Now」で、嵐はリスナーに最悪の結末を突きつける。収録曲の「The Bubble」には、「パレット」と全く同じ「仕舞いきれない想いの残骸」というフレーズが登場する。
しかもサクラップで。

この「The Bubble」、遠距離カップルの彼氏が彼女の浮気に気づいていて、二人の関係を「元に戻せなくなっても」「すべてを伝えるだけの力を」くれ、と願うダークな歌である。なにがダークって

横にいるそいつが電話で話すんだ
‘ここで寝てるよ’って

おい。しかも「寝てるよーーーーーーーって」の長い音にえぐられる。こんなの大野に歌わせないでほしい。
もちろん、二曲ともラップ詞はサクラップ(人名)によるものだ。なぜサクラップは同じフレーズを登場させたのだろうか。同じ疑問をもったファンが、2005年1月1日放送の「SHO BEAT」でサクラップに質問してくれていた。サクラップが答えていわく、「全然わかんねぇや」「なんで書いたんだろ、こんなの」。謎が解けるどころか、まさかネタ切れだったから使い回したのか? と新たな疑問を喚起させてしまっている。おい。
サクラップが使い回しさえしなければ、この曲と「パレット」に接点は生まれなかったのに。つまり二人は別れなくて済んだのに。リスナーは最悪の結末を知らなくて済んだのに。


それにしても一番ショックなのは、私にとって大のお気に入りだった「パレット」を、サクラップもアルバムの中で一番好きな曲だと語っていたことである。「ものすごい好き」「三杯くらい飯食える」とまで言うほどの気に入りよう。
端的に言ってショックだ。ありえないっつーの。
そんな自分の一番好きな曲を、自らのペンで破壊しつくしてしまったサクラップ。アルバム3枚目と4枚目の間、彼になにかよっぽど嫌なことがあったんじゃないかと妄想するのが残された楽しみである。