全て見たいんだ

2013年の紅白歌合戦の最大の見所は、2013年に私が思わず写真集を買ってしまった綾瀬はるかではなく、櫻井翔だった。
あの櫻井はまだ31歳だった。にもかかわらず、年齢に似合わぬ司会慣れ、正装慣れ、おっさんしゃべり慣れ。どんな隙間の時間も、どんなアドリブも、なんでも櫻井に投げてみれば消化してくれそうなほど頼もしかった。
あれで私とたった1歳差なのか。そう思うと、かっこいいと素直に喜んでばかりもいられなかった。しかし今日からは違う。思う存分言っていい、
櫻井かっこいい。
仕事できる。
さすが32歳。
私も32歳になる頃にはあのくらい仕事ができるようになっていたい。
翔くんかっこいい。


大学を卒業した頃のあなたは、記者会見で「学校と仕事の両立は難しかった?」と問われると、真顔で「学校だけ見ても別にー、バイトなりなんなりで忙しい人もいっぱいいるからー、まっ、そんなに大変だとは思わなかったっすけどね」アルマーニのスーツで答えていた。「この一年はほっ…とんど学校の友達といましたねぇ」
うっとうしい。
こんなにもうっとうしかった櫻井の、こういううっとうしい話し方が本当に苦手だった。あれから10年、まさかうっとうしかったK-O-BOYの語りに教わるようになるとは。
櫻井はきっと、自分のルックスも表情も話し方も生き方も、いつも意識して変えてきたと思う。要領がいいと言われる人が感覚でやってしまうことも、いちいち理屈づけして会得してきたタイプに見える。
32歳の櫻井に、AOKIのスーツを着て「僕だけじゃなくて、大学生は皆それぞれ忙しいですから」(にこ)っとやってほしいわけじゃない。いつまでもアルマーニダンヒルのスーツを着て、庶民の気持ちなんかわからない場所にいながら、ときどき「あれっ、でも、わかってくれてる?」と思わせ続けてほしい。「合コンにも行きましたか?」という質問に「いえ、そんな機会はなかったです」ではなく、いらだちと嘲笑をうっすらにじませながら「合コンってなんですか?」と返してしまう、若気の至り丸出しな一面も残しておいてほしい。
櫻井はこういう多面体だからこそ、よけいに「大卒」「キャスター」みたいな確固たる自分の売りや居場所を獲得したがっていたのかもしれない。もう売りも居場所も必要ない、櫻井翔(32)という存在感だけで一生食べていけるのだから、まだ隠しているその一面も、そろそろ明らかにしてもらおう。